高校の図書委員になると、最初に教わる事がある。
古い、岩波文庫の表紙を付け替える事。
大きな裁断機で、本の背表紙をカットし、表紙を剥ぐ。
サンドペーパーで、全体を磨く。
表紙、裏表紙、背表紙一体となった厚紙を強力接着剤で貼り付ける。
圧縮機ではさみ、数日置く。
職能訓練だった。
都立1番の蔵書を誇る高校の大図書館。
古い岩波文庫、新書、全書が揃っていた。
既に、一度は表紙を付け替えた文庫も壊れかかっている。
先輩が付け替えたのだ。
2度目の衣装変え。
教えてくれた先輩は、その技術を後輩に伝える事に誇りを持っていた。
この製本技術があれば、一生の役に立つ。
そう言っていたように思うが、その先輩は今頃、どこでどうしているのだろうか。
残念ながら、その技術をその後生かす事も、助けになる事もなかったが。
そう言った時の、丸メガネの先輩の自慢げな顔を思い出す。
図書室の奥の作業室にデンと置かれた裁断機は、日本刀のような刃が付いている。
悪戯すると、簡単に指を落とすと脅かされた。
それでも、指で触ると、簡単に指の皮膚が切れた。
血は流れなかった。
高校校舎最上階の図書館の西日を眩しく感じながらの、高校1年生の記憶。
高校図書委員の時の教育は生かされず、私は、自分の蔵書を持つ事を拒んで来た。
手元や自宅に本を溜めず、読んだら、職員に勧めて、手渡した。
それでも、溜まると、施設に運んだ。
本棚を見るのが、怖かったのだ。
何時迄も心に残る本が怖かった。
思想に、他人の人生に支配されるのが怖かった。
既に読書した本の背表紙を眺めると、自分の頭の中身を晒しているような気がした。
また、次の本への好奇心が薄くなるような気がしたに違いない。
明日は、次の本へ旅する。
過去の読書は忘れて良い。
それで良かったのか。
この年になると、改めて、再読したい本も思い浮かぶ。
今度の総裁選。
表紙を変えても、自民党の中身は変わらない。
文庫から新書に変わることはあるまい。
図書室の本の裁断機は、生まれ変わる為のメスだったのだと、思いたった。
半世紀前の思い出である。
本日職員新規PCR検査陽性者0
ご苦労様です。感謝致します。
今朝のパルスオキシメータ 97・99・99
読書は過去への郷愁 湖山 泰成
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