泰成君の小学校は1年5クラス。
1クラス55名。全校生1500人。
今では考えられないマンモス小学校。
1年生、最初の運動会。メインは全員参加の徒競走。
天国と地獄の音楽の中、子供は次から次へとスタートダッシュ。
泰成君は大柄だったので、最後のスタートチーム。
全力疾走。
トップを争うあまり、隣にぶつかり、大転倒。
転がりまわり、観客の家族席に転がり込んだ。
転倒した泰成君の眼には、もう、競走チームは遥か先を走り抜けている。
でも、泰成君は諦めない。
その瞬間、跳ね起きて、競技場に戻り、再ダッシュ。
それまでよりも、必死な形相で、夢中で全力疾走。
もう、全員ゴールしている。
先頭からビリ。
一人、ビリでも必死に走った。
ゴールには、担当の女性の先生が、両手を拡げて、泰成君一人を待ち受けていた。
コースの真ん中で、笑顔で。
泣き崩れて、ゴールインする泰成君をよく頑張ったとばかりに、抱きしめて、頭を撫でてくれた。
先生も泣き崩れながら。
すごい怒涛のような声援の中で、泰成君は意識を失った。
大転倒のビリは、どの一等走者よりも、輝いていた。
当日、1番目だったビリ選手は、どこに行っても誉められた。
校長の総括挨拶でも、転んで、ビリでも一人最後まで、全力疾走した1年生を誉めていた。
そのビリの1年生は、間違いなく泰成君である。
その1年生のスタートのおかげで、どの先生からも、PTAからも、泰成君は受けが良かった。
可愛がられた。
運動はからっきしダメで、実は赤外線アレルギーで、図書館にこもり切りの小学生だった。
でも、人生は不思議。
6年生の最後の運動会では、全校紅白チームの内、紅チームの大将となり、運よく、紅チームが勝った。
そして、全校生と親の見守る中、大きな優勝トロフィーを受け取る役を担った。
人生ただ一度の大会トロフィー受賞。
運動会のメインイベントで晴れの舞台に立った息子を見て、母は、只々涙だったそうである。
人生唯一息子を可愛く、誇らしく見えた1日だったのではないだろうか。
泰成君は、その後人生一度も全力疾走する事はなかった。
もう、転倒はこりごり。
1等でなくとも、ビリであっても、見る人は見ている。
本人の人生は充分輝く。
自分の力を出し切って、満足すれば、人と競う事はない。
一生の人生観は、小学校の運動会で培われる。
励ます先生と親の愛情で、子供は育ち学ぶ。
今年小学校59年生の泰成君は知っている。
本日新規職員PCR検査陽性0
ご苦労様です。感謝致します。
今朝のパルスオキシメータ 97・97・97
運動会の後で少し興奮しているかもしれません。
1年3組13番 湖山泰成
ーーーーーーー