私は子供の時から泣き虫だったと思う。
本を読んでは、映画を観ては、音楽を聴いては、泣いた。
詩を読むだけで、泣いた。
声を上げる事はないが、1人ただただ涙が込み上げてくる。
声にならないが、涙だけが止まらない。
何故だか、訳もなく。
怒りより、無常の非条理の、悔しさや情けなさの涙が心を満たしていく。
若い頃は、1人映画を観るのも、美術館に行くのも心置きなく涙するためだったのかも知れない。
ハードボイルドも、男泣きの孤独な話。
深夜のホテルのバーカウンターも、1人悲しみを受け止めるための宿木。
若い頃のバー通いは、塹壕に逃げ込む負傷兵だったのかなあ。
私の大学の恩師は、説明の必要のないくらいの偉い人で、権威と威厳の塊だった。
その人が、一度だけ語ったことがある。
大の大人の男が、人生に一度本当に泣こうを思った時、どこにもその場所はないんだ。
1日彷徨って、やっと見つけた場所が、デパートのトイレだった。
そこで、1人男泣きに泣き続けた。
そう言うのを聞いた事がある。
後で、お弟子さんに聞いたところ、その教授が、人生をかけて設立した研究所を部下に追い出された時の事らしいとわかった。
威厳に満ちた授業での風体と、デパートのトイレで1人泣く姿が、どちらも人生の風景として目に浮かんだ。
滑稽には映らなかった。
みっともないとも思わなかった。
老獪な言動と、赤ん坊みたいな振る舞いに人間らしさを感じた。
そんな怖い恩師も、今は、数冊の本の中にしかいない。
父を見送り、コロナの日々となってからは、泣く事が出来なくなった。
心から笑う事も無くなった。
何時も引きつった、硬い表情をしているのだろう。
24時間マスクをしている気分だ。
見えない敵に、剣を構えて対峙している。
この状態は何時まで続くのだろう。
本日新規職員PCR検査陽性1名。
御苦労様です。感謝致します。
パルスオキシメータ 97
湖山G代表 湖山泰成
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【解説】
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