【銀座湖山日記/5月15日】初めての当直

【銀座湖山日記/5月15日】初めての当直

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28歳の4月、銀座の救急指定病院の常任理事事務長となりました。
それ以来2年間は1日も休めなかったと思います。
でも、救急病院の経営の全てを経験することが出来ました。
銀座の四季、昼のお買い物と夜の歓楽街の顔。
ウイークデイのビジネス街の顔と、週末の商店街の顔。
早速、木曜の夜の事務当直当番に入りました。
当時、1日に5台平均の救急車が来ました。
今は車の性能が良くなって考えられませんが、当時は追突事故が珍しくありませんでした。
エアーバックも普及してなかったのでしょう。
ビル工事があれば工事期間中に一件の転落事故がありました。
事務当直者はカウンターの後ろの、カルテ棚の裏のソファーに毛布一枚を被って仮眠をします。
救急車が来ればサイレンとライトで直ぐに気がつきます。
夕方、年配の男性が意識不明で運び込まれました。
連絡先のメモを持参していましたから、病識をお持ちだったのでしょう。
直ぐに電話連絡をすると、賑やかなお店の騒音が背景に聞こえます。
お店で働いているので深夜迄行けません、待っていて、頂けますか?
勿論、救急指定病院ですから、24時間何時でも結構です。
すいません、ご迷惑かけます。
まさしく日付の変わる頃に、割烹着姿の女性が走って飛び込んでいらっしゃいました。
部屋番号をお伝えすると、ありがとうございます、と一声叫んで、私の手を握ります。
私が階段の方を指し示すと、エプロンと頭の白い被り物をかなぐり、階段を駆け上がって行きました。
一瞬の事でしたが、奥さんは本当に心配なさっているのだなと言うことが、伝わります。
そして、私の手には、小さく折り畳まれた千円札が2枚、握られていました。
その先の記憶はないのですが、その時の端正に折られた手の中の千円札の形状は未だに、目に焼き付いています。
当然お返しすべきものですが、悩んだ末にそうしませんでした。
お返しする事の方が、失礼で相手を傷つける気がしたからです。
その千円札は未だ財布の中にしまってあります、と言いたいところですが、そうはなりません。
翌日、1人ビールを飲んで帰ったと思います。
その方が、私の手を握った夫人が喜んでくださると思ったからです。
今と違って患者様のご家族からお菓子やお花をを頂く事がありました。
断らずに、お礼を言って、事務所で分けなさいと言うようなったのはその時の体験からです。
院長に2千円握らすことは出来なくとも、深夜迄シャッターを開けて待っててくれた病院の受付には感謝の気持ちを伝えてたかったのだと思います。
今思い返してもそうしてよかったと思います。
救急病院がテレビドラマになるのはよくわかります。
社会の縮図で、毎日のように人生のドラマがあります。
今は立派な国会議員になられた方が、大学生の頃、うちで事務当直のアルバイトしていた事がありました。
初日に頭から血を流した患者様が搬送されて来た初勤務が、自分の人生経験で一番のショックだったと、今だに言われます。
病院介護施設の当直をして、命の仕事の大変さ、使命、やりがいを知る人がいます。
一方、自分には無理だと他の道に転ずる人もいます。
どちらも、自分の人生の道です。
私は今年初めて当直に入る新人の事を思います。
皆さんも同じ思いで優しく新人を見守ってくださっていると思います。

若い時の苦労を思い出すようでは、私もそろそろかなあと思います。
君達は貰っては行けませんよ。

湖山グループ 代表 湖山泰成