『スラムドッグ$ミリオネア』
デュプリシティとは二枚舌とか、表裏の二面性の意味である。味気ない邦画名だが、最近は、アメリカの製作側が直訳か英語読み以外に勝手な翻訳名を許さないらしい。小生が小学生のとき、淀川長治が、当時ですら題名の付け方に工夫が足らないと映画教室で嘆いていたのを思い出したが、「哀愁」のような題名はもう出てこない時代になってしまった。さて、本編は、製薬大企業間の世界を揺るがす「画期的毛髪剤」をめぐる、元スパイ同士の企業情報戦を舞台にしたおしゃれなラブコメディーである。元M16のクライヴ・オーウェンと元CIAのジュリア・ロバーツによる、新薬の化学式を盗む方と守る方のどんでん返しと、狐と狸の化かしあいが続く。誰が味方で誰がモグラのスパイか分からなくなる。でも、メーンストーリーはあくまでも二人の恋の駆け引きである。過去にドバイ、ローマとお互い色仕掛けで、化かしあい騙しあってきたので、今度こそ本当に相手を信じられるか悩み苦しむ。オーウェンが色仕掛けで女性社員を騙した映像を見て、その女性社員を取り調べるジュリアの凍った無表情の怖いこと怖いこと。劇場にはシニアの夫婦が多かったが、ジュリアのファンなのではないか。今回は、オーウェンは間抜け男役である。スクリーンが4つに別れ、別場面が同時並行に動く映像手法を見て、思い出した。これは、「華麗なる賭け」へのオマージュだ。ストーリーも泥棒と保険調査員の調査と恋の駆け引きのダブルクロス。おしゃれスリラー。でも、スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェイのファンはご安心を。この二人はかっこ良さでは、及びもつかない。リメークはオリジナルの魅力を超えられないのだ、残念ながら。でも、トニー・ギルロイの脚本はさすが。感心した方は「フィクサー」を御覧あれ。これはシリアスです。(こ)