【逆転の経営】第20回 - 介護療養病床の未来を予想する –
介護療養病床も中小病院と同じ道をたどる
民主党政権は、介護療養病床の廃止を3年ぐらい延期することを議論しているようだ。
平成18年の医療制度改革で、介護療養病床は平成23年度末で廃止され、それまでの間に介護老人保健施設等に転換することとされていた。ところが、平成18年4月時点で約12万床あった介護療養病床は、4年後の22年4月時点で8万7000床にしか減っておらず、このうちの6割が『転換意向未定』となっている。
この現状をうけての『廃止延期』らしいが、あと5年程度寿命が延びるだけのことである。
そのうえ、介護情報がメルマ(包括化)になって低い設定になったり、重介護しか評価されなくなり、医師や看護師などのスタッフ数を増やさなければ経営できなくなるほど、経営サイドからすれば、収支も運営も、苦しく厳しいものになることは間違いない。
これは、過去に一般中小病院が追いつめられてきた道とまったく同じである。歴史は繰り返されるのである。
老人保健施設に転換すれば生き残れるか
介護療養病床の転換先とされている『老人保健施設』は大丈夫だろうか。
老人保健施設は、比較的医療依存度の低い利用者に対して、慢性期医療とリハビリテーションを行うことで、在宅への復帰をめざす役割を果たしてきた。
しかし今後は、療養病床と同程度の医療依存度の患者を受け入れていかなければ、満足に収入を得ることができなくなるのではないだろうか。
重度の患者を受け入れるとなれば、医師や看護師の数を増やさなければならず、人材の確保がむずかしいだけでなく、人件費も増加し、収支を悪化させることになるだろう。現在の5%程度の利益率は、次第にゼロに近くなり、やがて、資産を担保に借金を繰り返すことになるだろう。
施設(建物や設備)にも、人生と同じように『老齢化』や『寿命』が訪れる。竣工当初は、施設体系も設計思想も内装も新しく、職員も若く元気で活気にあふれる。15年を過ぎたあたりから、施設そのものが老朽化し、ベテラン職員が増える。欠員補充では、意欲的な若者(新人社員)の採用もままならない。
利用者も、施設や職員と三位一体で『老齢化』するため、寝たきりの利用者や認知症の利用が増えていく。施設をリニューアルしたいと思っても、法人の体力が消耗しているため、立て替えもままならない。百貨店や都市ホテルのように、永遠に最先端のアメニティを維持することなど、不可能うなのである。
特別養護老人ホームならどうか。
『特別養護老人ホーム』も、重度の利用者が急速に増えていくだろう。
特別養護老人ホームは、比較的重度で在宅生活が困難な利用者に、生活全般の介護を行う施設である。重度化傾向と個室ユニット化の流れを考え合わせると、人員配置を増やさなければならず、さらに厳しい経営を迫られるだろう。
そのうえ、特別養護老人ホームの入所待機者の数は莫大で、ユニット個室には、生活保護受給者の利用を認めないなど、本当に困っている人が利用できないという制度矛盾はらんでいる。この状態では、関係者すべてが不幸で、経営的にも、より追いつめられる結果が続くことになるだろう。
そこで、在宅介護サービスを利用しながら生活し、重度になったら特別養護老人ホームに入所することになる。
デフレ不況は半永久的に続くだろうから、高い家賃、高い広告費や営業マンを前提としたビジネスモデルの会社は、ゴルフ場やスポーツクラブがそうしてきたように合併していき、寡占化が進むのはないだろうか。
専門の医療介護事業者も、大企業の波に飲み込まれてしまうのだろうか。
事業の継続性や採算性について、国の保証が望めない状況下、並みいる大手企業のなかで、われわれのような中小の医療介護事業者が生き残るためには、相当の覚悟とたゆまぬ努力が不可欠になるだろう。
次の5年は在宅中心時代の幕開け
次の5年は、大手デベロッパーが建てる『大型マンション』が増えるだろう。
終末期になるまで、バリアフリーでフロントサービスが充実した、サービスレジデンス型マンションで暮らし、必要に応じて外付けの医療介護サービスを利用する。認知症や寝たきりになるまでは、施設に入所しなくてすむようになる。『生活サービス』にあたる部分は、すでに企業サービスとして、一般的に提供されている。糖尿病の治療食としての冷凍弁当は、糖尿病患者よりもダイエット中の若い女性に人気らしい。
デパートや映画館などの商業施設は、すっかりバリアフリーになった。飛行機、地下鉄、バスなどの公共交通機関も、車いす利用での乗り降りが可能になっている。駅にはエレベータが設置され、プラットホームにも楽に行ける。
高齢者医療と介護が社会に浸透・拡散したことによって、真に在宅中心の時代の幕開けとなる。介護保険制度の整備、社会全体の高齢化対応が、在宅生活を協力に後押ししていることは間違いない。
だがこれは、私たちのような、専門の医療介護事業者の疲弊消耗の上に成り立っていることも、まぎれのない事実である。
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【解説】
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