銀座シネマタイム6 「余命」SDP配給

銀座シネマタイム6 「余命」SDP配給

「余命」SDP配給

日曜の朝に見るには重すぎる。だが、我慢できずに東京・丸の内TOEIに飛び込んだ。松雪泰子演ずる外科医が、妊娠と乳がんの再発の2つの中で自らの命を犠牲にして、出産を選ぶ切ない物語。でも、期待通り、命が未来につないで行く希望に満ち溢れたエンディングなので安心して見て欲しい。実は、予告編の松雪泰子を見て心に留めていたのだ。“フラガール”での好演以来、次を期待していた。36歳の松雪が37歳の女医をそのまま演じきる。整い過ぎた松雪の顔立ちに、己の死と出産の生を同時に受け入れようとする人間の戸惑いが浮かぶ。朝日新聞のインタビューで、演出家の奈良林陽子さんが言っている。「演技は振りをするのではなく、自分の中の真実を使う。本能的な感覚を磨き、劇中でも現実と同様に真の衝動に基づき反応するのです。役が感じる痛みや恐れはすべて自分の感情。これが達成できる役者は海外でも通用します。人の心を動かし、生きる事の凄さ、ミラクル・オブ・ライフを伝える作品を作りたい」
 松雪は素晴らしい演技をしていると思う。医者の時の表情と、患者として検査を受ける時の表情。化粧なしのスッピンをさらすのは女優として勇気がいったに違いない。真実をさらけ出す度胸と感性がある。狂人や犯罪者を演ずるより、気弱な平凡な人間を演じる事の方がはるかに難しい。
 新たな生命を得る中で、死を受容することができる。自分は死を考えながら、何を生み出そうとしているのか。谷村志穂の原作を読みながら考えた。邦画今年前半のベストワンです。(こ)